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中小企業が自社製品を作ることでの効果

 

◆自社で最終製品を手掛けるという選択肢を追加するということ

当事務所は、プロダクトデザインを軸に、様々な企業様の商品開発において協働でプロジェクトに関わらせていただいています。その多くは、最終製品を手掛けている企業の製品開発・商品開発ですが、近年では受託加工専業から自社オリジナルの最終製品の開発・販売に進出する中小製造業のお手伝いをする機会も増えてきています。当事務所は、プロダクトデザインを軸に、様々な企業様の商品開発において協働でプロジェクトに関わらせていただいています。その多くは、最終製品を手掛けている企業の製品開発・商品開発ですが、近年では受託加工専業から自社オリジナルの最終製品の開発・販売に進出する中小製造業のお手伝いをする機会も増えてきています。

従来の受託加工に加えて、自社で最終製品の開発・製造・販売まで手掛けるということをもう一つの事業にしていくという流れは、徐々に増えている様に感じます。これを具現化していくまでの中では、越えていかなくてはならない、様々なステップがあります。

・魅力的なコンセプトをつくれるか?(製品を通じて提供される価値)
・そのコンセプトを自社が提供することは、誰からの共感につながるのか?(妥当性)
・製品開発の技術面での課題がクリアできるか。
・製品開発や製造に必要な環境を整えられるか(足りないリソースをどうするか?)
・「モノ(製品)をつくる」と同じくらい「価値を伝える」という部分に取り組めるか?(製品を商品へできるか)
・目標レベルの事業となるまで育て続けることができるか?

・・・etc.

現実には、これらの壁を越えられず商品として世の中に出ることなくプロジェクトが中断、あるいは終了してまうケースも少なくありません。(これは各社の判断なので、良い・悪いという話しではありません。

壁を越え、商品としての販売にまでたどり着いた企業を見ていると、その商品がいきなりバカ売れ、なんて話しはほぼないですが、その自社商品を世の中に送り出したことを通じ、変化の手応えを感じているという話しを聞くことができます。『自社商品が「技術カタログ」としての役割となり、本業での新規顧客の獲得につながった』であったり、『自社製品を作る中で、新たな分野の協業企業と出会えた』であったり、『社内の創造活動がより活発になり、スタッフによる社内外への提案力が向上した』であったり、様々です。それらは、最初から意図しての結果だったり、やってみたら思いがけずという場合だったりと、各社により色々あるけれど共通しているのは本業との相乗効果を感じているということでしょうか。

 

当事務所でお手伝いさせていただいた『NOUQUE』も、様々な壁をひとつづつ越えて世の中に送り出すことができた商品のひとつです。この商品は、所謂2穴パイプファイルを再定義した商品で、本業は精密板金プレス事業を展開している株式会社キョーワハーツによる新規事業です。

【 NOUQUE 】Filing System / closed mode

【 NOUQUE 】Filing System / open mode

NOUQUE』の詳細紹介ページ→  株式会社キョーワハーツ→ 

 

商品コンセプトを詰めていく段階から、同社の坂本社長よりご相談いただき、デザイン開発、製品化フォローとお手伝いさせていただき、2015年に発売されその年の『国際文具・紙製品展』でお披露目されました。同社はその後も、地道に商品改良や周辺アイテムの追加など、商品力の育成を続けられています。

先日、パシフィコ横浜で開催された「ヨコハマ テクニカルショウ 2018」へも同社が出展されていたことから、出かけてきました。今回はNOUQUEのファイルにRFIDを組合わせ、書類管理をするシステムとして提案展示しており、モノとしての商品から、ソリューションとしての商品へと進化させていくことで、病院のカルテ管理など新しい分野からの問い合わせに繋がっているとのことでした。

ブースにいらっしゃった坂本社長から伺った話しで興味深かったのは、NOUQUEを作って以降、今回のRFIDと組合わせた活用など、社員さんからの提案が活発になっているということでした。『みんな色々よく考えるねぇ』と言って社長は笑っていましたが、社長自身が意図的にそのような社内の雰囲気を作ってきた積み重ねによることは、間違いありません。

最初は社長が一人で始めたことが、NOUQUEとして商品化されると、それがスイッチとして機能し、NOUQUEを『お題』に色々動く人が社内出てきてというような変化は、自社で最終製品をつくるという流れの中では、受託した仕様に基づきモノを作って納品するという、従来の仕事の中からより起きやすいと感じます。

 

◆他人事でなくデザインをきちんと使う:「何をつくるか」と「何故つくるのか」

商品開発のプロジェクトにおいては(これまでデザイナーと仕事をしたことがない企業と仕事をさせていただく際には特に)、『デザインをきちんと使う』ことを知って欲しいので、ご依頼企業の方とチームを組み協働の中で製品開発・商品開発を行うという進め方を、当事務所では基本としています。これは、一見デザイナーとしての納品物は、製品の形・色・テクスチャーといった「目に見えるもの」と思われがちですが、商品開発においては、「何をつくるか」と同じくらい「何故つくるのか」という部分も大事だと考えています。

その両輪が商品の価値に関わるのですから、価値の可視化であるデザインにおいても、「形や色」を考える前の段階からデザイナーが関わる方が、価値の可視化ということもより最適解に近づける筈ですから。

提示された要件を元にデザイナーだけがデザインを考えて提案するという進め方でなく、協働で開発に関わり、時にはコンセプトなど「そもそも」の部分も議論しながら、最終的にデザインが決まるまでのプロセスをチームで共有するという進め方に重きを置いているもうひとつの理由は、チームメンバーのそこでの経験が、顧客先の社内の創造活動をより活性化させるスイッチになるということも狙っているからです。

 

今回挙げた、キョーワハーツさんの様に、自社で最終商品を作り事業化していく中で、モノがきっかけに社内にも変化が起きているという流れは、商品化に関わった一人としても嬉しい効果です。現時点で公開できませんが、ここ数年来関わらせていただいているパーソナルモビリティのプロジェクトにおいても、商品開発プロジェクトが動き始めて以来、同じように顧客先のプロジェクトメンバーがどんどん変化してきており、これからが楽しみです。

商品開発においては、『何をつくるのか』というところだけでなく『何故つくるのか』というところから、デザイナーを巻き込んでおくことは、中長期的な効果という視点からもお勧めです。

< 林田 浩一 >

 

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